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1.始まり


2004年の4月3日。

よく晴れた日曜日の午後。
表参道のとあるカフェに、7人の男たちが集まった。
これが映像研究室の始まりだった。

きっかけは、思わぬタイミングだった。
「役者やスタッフを集めて映像製作団体を立ち上げたい。《
とある昼どきのとあるそば屋で、 会社の先輩のKさんとこんな話をしたことがすべての発端だ。
当時、世の中のビデオカメラの価格は下がる一方で、 映像を自分で撮って編集するということが 徐々に身近に感じられるようになってきていた時代だった。
私自身は過去に芝居をやっていたという経緯もあり、 こんな時代の中であれば映像製作団体を立ち上げるということが 自分にもできるのではないか、ということを感じていた。
しかし、これまで特に 具体的なプランを思い描いていたわけでもなければ、 だれかにそんな話をしていたわけでもない。
ただ、一緒に昼食をとっていたKさんは、 大学時代に放送研でラジオドラマの製作をしていた人だった。
そんなこともあって、心の片隅に置いていた想いが ふと口をついて出てきたという感じだった。
私のこの思いつきのような発言に対して、 Kさんからは意外な言葉が返ってきたのを鮮明に覚えている。
「それは間違っているよ。《
私は一瞬、耳を疑った。
それは面白いから一緒にやろうという言葉を あわや期待していた私は非常にびっくりしたのだ。
Kさんは続けた。
「世の中には、たった一人でカメラを持って撮影して、  素晴らしい作品をつくっている人たちはすでにたくさんいるんだ。  本当に映像作品がつくりたいのであれば  役者を集めるとかスタッフを集めるとか言ってないで、  なぜすぐに自分でつくってみないんだい?《
たしかにその通りだ。
そう思った私は、 その週末にヨドバシカメラで売られていた 最も安いデジタルビデオカメラを購入したのだった。
一本の映像作品をつくるというのは、 私が思っていたよりも大変なことだった。
勢いに任せて街の風景を一日撮り歩いても ひとつの映像作品にはならず撮り直しになったり、 シナリオを書いても そんな映像は実際には撮れずに書き直しになったり、 映像編集ソフトも初めて使うので マニュアルを見ながらひとつひとつ作業を進めたり。
何度もの撮り直し、何度ものシナリオ練り直しを経て、 ようやく6分の短編映像が完成したのだった。

2004年の4月3日。
よく晴れた日曜日の午後。
表参道のとあるカフェに、7人の男たちが集まった。
彼らは、私がはじめてつくった6分のこの短編映像を見て、 映像製作団体立ち上げに手を挙げてくれたメンバーである。
これが、映像研究室の始まりだった。
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